発明家をサポートするエンジニア
現実世界をデジタル空間に再現し
「困りごと」の解決を加速する
近年、耳にする機会が急速に増えてきた「デジタルツイン」。現実では困難な実証実験をデジタル空間でシミュレーションすることで、現実世界のモノやサービスの改善に貢献すると大いに期待されています。ウーブン・バイ・トヨタの小嶋祥也さんは、この先進技術を駆使し、発明家の「困りごと」に真摯に取り組むための研究開発に日々邁進しています。子どもの頃からの「困っている人を助けたい」という想いを持つ小嶋さんがこの技術を通して誰かのために実現したいこととは?
小嶋さんが開発に取り組むデジタルツインについてお聞かせください。
小嶋さん:現在私が取り組んでいるデジタルツインとは、現実世界から収集したデータを使って、予測したい現象を仮想空間上に再現するシミュレーションの一種です。従来のシミュレーションと比べて、リアルに収集したデータをよりタイムリーに反映することができます。また、デジタルツイン上で新たな技術やサービスの実証を繰り返すことで、現実世界へ必要な改善をフィードバックすることができます。今はまだ試験段階ですが、Woven Cityがオープンしたら街のリアルなデータを反映し、本格的な活用段階に入っていきます。
日々どのような想いで仕事に取り組まれていますか?
小嶋さん:子どもの頃から「人に親切にしたい」という想いが常に心にあります。身近で困っている人を見ると、助けてあげたいという気持ちが湧き上がってくるんです。とは言え、実際の人助けには少し気恥ずかしいところもあります。その点、仕事であれば臆することなく人助けできますし、全力を尽くせると感じています。前職は社会インフラのソフトウェアを開発していましたが、モノやサービスを開発しても、それをテストするリアルな環境がなければ、その効果を測定できないという課題を感じていました。しかし、今注力しているデジタルツインはそういった課題への解になり得る技術であると考えています。Woven Cityでプラットフォームを作っていけば、様々な分野に展開して世の中のたくさんの「困りごと」を解決し、社会に貢献できると考えています。
デジタルツインを活用してどのように「困りごと」を解決するのでしょうか。
小嶋さん:例えば、交通安全に関するトヨタ自動車のケースがあります。トヨタの究極の願いは、交通事故による死傷者ゼロの社会を実現することです。その一つの取り組みとして安全な先進運転技術の開発を進めていますが、自動運転を当たり前にするには、街のインフラや交通ルールの観点からもアプローチする必要性を感じています。そこで私たちは、デジタル空間に作り上げたWoven City内に、モビリティ・人・街のインフラを登場させ、現実世界では事前検証が難しい交通事故リスクを見える化できるソリューションを作ろうとしています。
今はまだ概念実証の段階ですが、現実の世界では難しい交通リスクの検証をデジタル空間で行うことで、未発見のリスクを一つでも見つけられる、そしてゆくゆくは、Woven Cityを飛び出して世界各地の都市でも交通安全の促進に寄与できるソリューションとして育てていければと思っています。
またリスク検証の他にも、物流のオペレーション改善や、工場の生産工程の稼働率向上など、デジタルツインの技術や特性を応用することを始めています。そういった機会を探っていくことも、よりこの技術が誰かの役に立つようにしていくには重要であると思っています。
今後、発明家をどのようにサポートしていきたいとお考えですか?
小嶋さん:Woven Cityにおいては、発明家の隠れたニーズを掘り起こして、デジタルツインから最大限のソリューションを提案していくことができると考えています。そのため、まずは発明家の「困りごと」を深掘ることが出発点になります。本当に困っていることは何か、デジタルツインを使って何を見たいのかを導き出していくのです。私たちも仮説を持って、「こういうことですかね?」と丁寧なやりとりをすることからスタートさせ、開発段階から発明家が何をしたいかをしっかり引き出していくようにしています。
ホワイトボードを前に「こういうことが得られたら嬉しい」といったゴールに向けて、チーム内で膝を突き合わせて数ヶ月も議論することがあるほどです。泥臭いほど熱くなってしまうんですが(笑)、発明家の方々が胸に抱く想いをしっかりと実現できるように全力でサポートしながら、同時にデジタルツインをより強いプラットフォームに鍛えていきたいと思っています。
小嶋祥也 Shoya Kojima
社会インフラのソフトウェアエンジニアを経験。2022年よりウーブン・バイ・トヨタで交通安全および物流のデジタルツイン開発に携わる。
発明家の「困りごと」(トヨタ自動車)
交通の安全性検証を、リアルな場で再現するのは困難
安全な交通流の実現のためには、人が移動する多様な環境での事故実例の検証が必要。様々な実証実験を行いたいが、物理的な事故を現実の世界では起こせない。
デジタルツイン・プラットフォーム
サービスやハードウェアを実際の街中で動かす前に、過去のデータに基づいて人や自動車の移動、交通事故を仮想空間上で再現し、モビリティ・人・街のインフラを含めたリアルなシミュレーションを行うことが可能。